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東京地方裁判所 平成5年(ワ)3146号 判決 1996年2月07日

主文

一  被告株式会社東名小山カントリー倶楽部及び被告荒井靖は、原告宮田喜久雄に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する被告東名小山カントリー倶楽部は平成五年三月一六日から、被告荒井靖は同月一四日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社東名小山カントリー倶楽部、被告金子秀雄及び被告畠山邦彦は、原告小林厚に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する被告株式会社東名小山カントリー倶楽部は平成五年三月一六日から、被告金子秀雄は同月一七から、被告畠山邦彦は同年四月八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告宮田喜久雄の被告株式会社ゴルフサービス、被告松本祐商事株式会社及び被告株式会社オールコーポレーションに対する請求をいずれも棄却する。

四  原告小林厚の被告株式会社ゴルフサービス、被告松本祐商事株式会社、被告株式会社オールコーポレーション、被告金山英植及び被告川北明に対する請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告らに生じた費用の二分の一と被告株式会社東名小山カントリー倶楽部、被告荒井靖、被告金子秀雄及び被告畠山邦彦に生じた費用を右被告らの負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告株式会社ゴルフサービス、被告松本祐商事株式会社、被告株式会社オールコーポレーション、被告金山英植及び被告川北明に生じた費用を原告らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告株式会社東名小山カントリー倶楽部(以下「被告東名小山」という。)、同株式会社ゴルフサービス(以下「被告ゴルフサービス」という。)、同松本祐商事株式会社(以下「被告松本祐商事」という。)、同株式会社オールコーポレーション(以下「被告オールコーポ」という。)及び同荒井靖(以下「被告荒井」という。)は、原告宮田喜久雄(以下「原告宮田」という。)に対し、各自金二〇〇万円並びにこれに対する被告東名小山、同ゴルフサービス、同松本祐商事及び同オールコーポは平成五年三月一六日から、被告荒井は同月一四日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告東名小山、同ゴルフサービス、同松本祐商事、同オールコーポ、同金子秀雄(以下「被告金子」という。)、同畠山邦彦(以下「被告畠山」という。)、同金山英植(以下「被告金山」という。)及び同川北明(以下「被告川北」という。)は、原告小林厚(以下「原告小林」という。)に対し、各自金二〇〇万円並びにこれに対する被告東名小山、同ゴルフサービス、同松本祐商事及び同オールコーポは平成五年三月一六日から、被告金子は同月一七日から、被告畠山は同年四月八日から、被告金山は同年三月二〇日から、被告川北は同月一六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告宮田が、昭和五六年一二月ころ、被告東名小山との間において、同社が経営する東名小山カントリー倶楽部(以下「本件ゴルフクラブ」という。)についての会員契約を締結し、入会金及び預託金合計金二〇〇万円を支払い、また原告小林が平成元年六月に同様に右会員契約を締結して金二〇〇万円を支払ったところ、被告東名小山、同ゴルフサービス、同松本祐商事及び同オールコーポ等は共謀の上、約四万四〇〇〇名に達するまで会員募集を行って、原告らの本件ゴルフ場についてのゴルフ会員権を無価値ならしめ、あるいは本件ゴルフ場についての会員権が既に無価値であるにもかかわらずこれを秘して価値のある会員権であるかのように欺罔して、会員契約を締結させ、原告らに各金二〇〇万円の損害を与えたとしてその損害賠償を求めるものである。

第三  当事者の主張

一  請求原因

1 (当事者)

(一) (被告東名小山)

被告東名小山は、静岡県駿東郡小山町新柴地区に「東名小山カントリークラブ」名のゴルフ場(本件ゴルフクラブ)の設立を計画及び実行し、平成元年八月一五日に被告ゴルフサービスに経営を委託して、ギャツビーゴルフクラブの名の下にオープンした。

(二) (被告金子、同畠山及び同荒井)

被告金子及び同畠山は、昭和六三年に被告東名小山の代表取締役に就任し、以後その地位にある。

被告荒井は、昭和五六年一二月当時被告東名小山の代表取締役であった。

(三) (被告ゴルフサービス)

被告ゴルフサービスは、平成元年七月に被告東名小山から本件ゴルフクラブの経営を委託され、同年八月に本件ゴルフクラブにおいてギャツビーゴルフクラブの名称で経営を開始した会社である。

(四) (被告金山及び同川北)

被告金山及び同川北は、現在被告ゴルフサービスの代表取締役であるが、平成元年六月ころも既に同社の代表取締役であった。

(五) (被告松本祐商事及び同オールコーポ)

被告松本祐商事及び同オールコーポは、金融業者であり、昭和五六年七月二日、共同出資により被告ゴルフサービスを設立した。

2 (原告宮田に対する不法行為)

(一) (被告らの共謀及び大量会員募集)

被告東名小山代表取締役としての同荒井、同松本祐商事代表取締役松本祐正及び同オールコーポ(当時の商号は株式会社レインボー)代表取締役小沢大介(以下「小沢」という。)は、昭和五六年二月ころ、本件ゴルフクラブについて入会金名下の金員を取得する目的で数万人に及ぶ大量会員募集を行うことを計画し、これに同年七月に設立された被告ゴルフサービス代表取締役仙田八千代が参画した。

右共謀に基づき、被告東名小山は、一八ホールの本件ゴルフクラブについて、最終正会員数が一八〇〇名であるとの虚偽の事実を表示して、会員数が四〇〇名であった昭和五六年二月ころから昭和六三年二月ころまで毎月約三五〇人から四六〇人のペースで約三万人ないし四万人の会員募集を行い、さらに昭和六三年三月ころから平成五年八月ころまで毎月約一五〇人のペースで約一万人の会員募集を行った。

(二) (原告宮田の入会)

原告宮田は、昭和五六年一二月二六日ころ、被告東名小山との間で、本件ゴルフクラブについての会員契約を締結し、被告東名小山に対して、入会金・預託金合計金二〇〇万円を支払った(頭金は金二〇万円で、残金一八〇万円は分割払いとし、完済は昭和五九年一二月三〇日である。)。

3 (原告小林に対する不法行為)

(一) (被告らの共謀及び販売・募集)

被告東名小山代表取締役としての同金子及び同畠山、同ゴルフサービス代表取締役としての同金山及び同川北、同松本祐商事代表取締役松本祐正並びに同オールコーポ(当時の商号は株式会社不動産ローンセンター)代表取締役荻窪開南は、昭和六三年三月ころ、その当時の本件ゴルフクラブの会員数は既に約三万人ないし四万人であったところ、入会金名下に金員を取得する目的でさらに会員募集を継続することを計画した。

右共謀に基づき、被告東名小山、同ゴルフサービス、同松本祐商事及び同オールコーポは、本件ゴルフクラブの会員権が無価値であるにもかかわらずこれを秘匿して販売し、または、さらに会員募集を継続することにより本件ゴルフクラブの会員権を無価値ならしめた。

(二) (原告小林の入会)

原告小林は、平成元年六月一四日、被告東名小山の募集代行業者たる株式会社ファーストゴルフ企画(弁論分離前の相被告。以下「ファーストゴルフ」という。)を介し、被告東名小山との間で本件ゴルフクラブについての会員契約を締結し、同日、被告東名小山に対して、入会金・預託金合計金二〇〇万円を支払った。

4 (損害)

本件ゴルフクラブの会員数は、現在、約四万四〇〇〇人であり、その会員権はほとんど無価値となっている。

5 よって、不法行為に基づく損害賠償として、

(一) 原告宮田は、被告東名小山、同ゴルフサービス、同松本祐商事、同オールコーポ及び同荒井に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する右各被告に本件訴状が送達された日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(二) 原告小林は、被告東名小山、同ゴルフサービス、同松本祐商事、同オールコーポ、同金子、同畠山、同金山及び同川北に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する右各被告に本件訴状が送達された日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1(当事者)について

(一) 請求原因1(一)についての被告東名小山の答弁

請求原因1(一)の事実のうち、平成元年八月にギャツビーゴルフクラブという名称でゴルフ場が開場されたことは認めるが、その余は否認ないし不知。

(二) 請求原因1(二)についての被告金子、同畠山及び同荒井の答弁

(1) (被告金子及び同畠山の答弁)

請求原因1(二)の事実のうち、被告金子及び同畠山が被告東名小山の代表取締役に就任したことは認める。

(2) (被告荒井の答弁)

請求原因1(二)の事実のうち、被告荒井についての事実は認める。

(三) 請求原因1(三)についての被告ゴルフサービスの答弁

請求原因1(三)の事実は認める。

(四) 請求原因1(四)についての被告金山及び同川北の答弁

被告金山及び同川北が被告ゴルフサービスの代表取締役に就任したことは認める。

(五) 請求原因1(五)についての被告松本祐商事及び同オールコーポの答弁

請求原因1(五)の事実のうち、被告ゴルフサービスが被告松本祐商事の出資により設立されたことは認めるが、被告オールコーポとの共同出資により設立されたことは否認する。

2 請求原因2(原告宮田に対する不法行為)について

(一) 請求原因2(一)(被告らの共謀及び大量会員募集)について

(1)(被告東名小山の答弁)

請求原因2(一)の事実は否認する。

(2)(被告ゴルフサービスの答弁)

請求原因2(一)の事実のうち、被告ゴルフサービス設立当時の代表取締役が仙田八千代であったことは認め、本件ゴルフクラブの会員数についての主張は不知。その余は否認する。

(3)(被告松本祐商事及び同オールコーポの答弁)

請求原因2(一)の事実は否認する。

(4)(被告荒井の答弁)

請求原因2(一)の事実のうち、昭和五六年二月当時、本件ゴルフクラブの会員数が約四〇〇人であったこと及び被告荒井が当時被告東名小山代表取締役として本件ゴルフクラブの会員募集をしたことは認めるが、その余の事実は否認ないし不知。

被告荒井は、昭和五六年当時、松本裕正とも小沢とも知り合っていないし、昭和五九年一〇月、被告東名小山の代表取締役を辞任しており、それ以後については原告宮田と無関係である。

(二) 請求原因2(二)(原告宮田の入会)について

(1) (被告東名小山の答弁)

請求原因2(二)の事実のうち、原告宮田が本件ゴルフクラブの会員であることは認めるが、その余は不知。

(2) (被告ゴルフサービス、同松本祐商事、同オールコーポ及び同荒井の答弁)

請求原因2(二)の事実は不知。

3 請求原因3(原告小林に対する不法行為)について

(一) 請求原因3(一)(被告らの共謀及び販売・募集)について

(1)(被告東名小山、同金子及び同畠山の答弁)

請求原因3(一)の事実は否認する。

被告東名小山の現経営陣が本件ゴルフクラブの経営を引き継いだ昭和六〇年以降は、ゴルフ場及びクラブハウスの造成・建築・工事代に充当するため以外にはほとんど会員権は販売していない。

(2) (被告ゴルフサービス、同金山及び同川北の答弁)

請求原因3(一)の事実のうち、本件ゴルフクラブの会員数についての主張は不知。その余は否認する。

(3) (被告松本祐商事及び同オールコーポの答弁)

請求原因3(一)の事実は否認する。

(二) 請求原因3(二)(原告小林の入会)について

(1) (被告東名小山、同金子及び同畠山の答弁)

請求原因3(二)の事実のうち、原告小林が本件ゴルフクラブの会員であることは認めるが、その余は不知。

(2) (被告ゴルフサービス、同金山、同川北、同松本祐商事及び同オールコーポの答弁)

請求原因3(二)の事実は不知。

4 請求原因4(損害)について

(一) (被告東名小山、同金子及び同畠山の答弁)

請求原因4の事実は否認する。

現在、本件ゴルフクラブ(「ギャツビー・ゴルフクラブ」名)は、メンバー重視の経営方針の下に円満に運営されており、多くの会員に喜んで利用されている。また、名義変更停止の解除により、本件ゴルフクラブの会員権(以下「本件会員権」ともいう。)は会員権市場において流通するようになり、新規会員も続々と誕生している。なお、現在の本件ゴルフクラブの会員権の取引価格の相場は、約金五〇万円である。

(二) (被告ゴルフサービス、同金山及び同川北の答弁)

請求原因4の事実は否認する。

(三) (被告松本祐商事、同オールコーポ及び同荒井の答弁)

請求原因4の事実は不知。

5 請求原因5(結び)について(全被告の答弁)

請求原因5の主張は争う。

三  抗弁(被告荒井)

原告宮田は、本件ゴルフクラブの会員の権利を「守る会」の設立集会が開かれた平成元年一〇月七日の時点で、本件ゴルフクラブの会員権が無価値であることを知っていた。したがって、仮に原告宮田が被告荒井に対する損害賠償請求権を有するとしても、それについては、右時点から三年の経過により消滅時効が完成した。

被告荒井は、平成六年八月二四日の本件口頭弁論期日において右消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

第四  判断

一  原告らの入会と支払い

1 (原告宮田の入会)

証拠によれば、原告宮田は、昭和五六年一二月二六日ころ、被告東名小山との間で、本件ゴルフクラブについての会員契約を締結し、被告東名小山に対して、入会金・預託金の合計として金二〇〇万円を支払った(頭金は金二〇万円で、残金一八〇万円は分割払いとし、完済は昭和五九年一二月三〇日である。)事実が認められる。

2 (原告小林の入会)

証拠によれば、原告小林は、平成元年六月一四日、被告東名小山の募集代行業者たるファーストゴルフを介し、被告東名小山との間で本件ゴルフクラブについての会員契約を締結し、同日、被告東名小山に対して、入会金・預託金の合計として金二〇〇万円を支払った事実が認められる。

二  原告らの被害

1 原告らは、原告ら取得の本件ゴルフクラブの会員権がその後の大量募集により無価値となり、または既に大量募集により無価値となっているにもかかわらずこれを秘して原告らに右会員権が販売されたために、被害を被った旨を主張する。

2 そこで、まず、本件会員権が大量に販売されているかどうかを検討する。

本件ゴルフクラブの会員数については、

<1>被告東名小山自身が、別件において、「ゴルフサービスも昭和六〇年に経営に関与したときは、被告会社(被告東名小山)発行の会員権の発行済数量は一万五〇〇〇枚程度と説明されていた」と主張していること

<2>被告荒井自身が被告東名小山代表取締役在職当時、二万人の会員がいたと語ったと報じられていること

<3>平成四年六月当時、警視庁特捜本部の調べで会員数は四万四〇〇〇人と報じられていること

<4>本件ゴルフクラブのゴルフ場の造成工事を請け負いその工事代金の代物弁済等として被告東名小山から本件ゴルフクラブの会員権を交付された株式会社市川造園土木は、昭和五八年二月ころから昭和六二年八月ころまでの間に本件ゴルフクラブの会員券合計約四五〇〇枚を、昭和六一年五月ころから昭和六二年一〇月ころまでの間に同会員券合計約二二五〇枚をそれぞれゴルフ会員権販売業者を通じるなどして販売していると別件の判決で認定されていること

<5>静岡地方裁判所沼津支部が平成元年一二月五日に本件ゴルフクラブの会員名簿等を検証のために提示せよと命ずる証拠保全決定をしたが、被告東名小山は提示を拒絶したこと

<6>当裁判所が平成七年五月八日に被告東名小山に対して会員台帳を提出せよとの文書提出命令を発布したにもかかわらず、被告東名小山は提出しようとしないこと

以上の諸事情が認められる。これらの事情によれば、本件ゴルフクラブには、昭和六〇年当時で少なくとも一万五〇〇〇人以上、現在は少なくとも二万人の会員がおり、その数は約四万四〇〇〇人に上る可能性もあると推認すべきである。

3 ところで、一般にゴルフ会員権は、ゴルフ場においてプレーをする権利を中核とするものであるが、それにとどまらず、ゴルフ会員権が希少性を有することから、いわゆるゴルフ会員権市場において売買されることによって相当の交換価値を有するものである。そうすると、会員のゴルフプレーが可能となり、ゴルフ会員権価格が維持されるために、会員数が適正な範囲内の数にとどまっていることが必要である。

関係者の間では、本件ゴルフクラブのような一八ホールのゴルフ場については、一五〇〇人程度が一応の限度であり、多くても三〇〇〇人程度が限度と言われている。

したがって、本件ゴルフクラブの適正会員数は右程度であり、経営主体がこれを超えて大量に会員権を発行した場合には、会員に対する加害行為となるというべきである。

4 証拠によれば、本件ゴルフクラブは、平成元年八月にオープンしたが、オープン後もプレーをすることができない状態にあることが認められ、右2、3が裏付けられている。また、被告東名小山の主張によれば、名義変更停止が解除された現在の本件会員権の取引価格は金五〇万円程度であるとのことである。

右のように、本件会員権がほとんどゴルフ会員権としての価値を有しないのは、前記2・3のとおり本件ゴルフクラブが少なくとも二万人以上の会員を有するためということができる。したがって、原告らは、金二〇〇万円で購入した本件会員権がそれだけの価値を有しないために損害を被った状態にあるものである。

三  被告らによる加害行為の有無

1 本件会員権の大量販売の経緯

証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) (被告東名小山の設立等)

被告東名小山は、静岡県駿東郡小山町竹之下新柴地区にゴルフ場「富士足柄カントリークラブ」を開設するために、株式会社富士足柄カントリークラブを当初の商号として、拓殖安邦が代表取締役となって昭和四七年一一月四日に設立された。被告東名小山は、当初一口二〇〇万円ないし二五〇万円で会員権を販売したが、ゴルフ場の建設は行き詰まり、その後、代表者が転々とし、被告東名小山の商号及び建設予定のゴルフ場も、「桜富士ゴルフ倶楽部」、「東箱根カントリー倶楽部」と変遷した。昭和五三年一二月の時点では、本件ゴルフクラブの会員数は約四〇〇名であった。昭和五六年一月一七日に、被告荒井が被告東名小山の代表取締役に就任し、商号を現商号に変更し、同年、当初の予定よりも大きく遅れて、ゴルフ場の建設に着工した。この際被告荒井は、最終募集人員一八〇〇名として本件会員権を販売した。

(二) (被告ゴルフサービスの同東名小山への融資等)

被告東名小山は、昭和五八年、金融業を営む被告松本祐商事に対し、ゴルフ場建設に必要な資金の融通を申し込んだ。被告松本祐商事は、同業の被告オールコーポ(当時の商号は株式会社レインボー)と共同で合計二三億円を融資することとし、各二分の一をそれぞれの子会社を通じて、被告ゴルフサービス(被告松本祐商事の子会社で、昭和五六年七月に設立された。)に融資し、被告ゴルフサービスがこれを被告東名小山に融資した。また、被告松本祐商事及び同オールコーポは、その出身者を被告東名小山の役員に送り込んだ。

(三) (本件ゴルフクラブのオープン)

昭和五九年一〇月に、被告東名小山の代表取締役は被告荒井からその実兄である水野健(以下「水野」という。)に交代し、また本件ゴルフクラブは、一時豊田商事グループの株式会社豊田ゴルフクラブに売却される等したが、その後右売買が解除され、昭和六三年三月九日、被告金子及び同畠山が被告東名小山の代表取締役に就任した。

他方、昭和六二年二月二五日、被告金山及び同川北が被告ゴルフサービスの代表取締役に就任した。

そして、平成元年八月、本件ゴルフクラブが当初の予定より大幅に遅れながらも完成するに至った。

主としてそれまでの間に二2のとおり大量の本件会員権が販売された。(後記(四)をも参照)

(四) (オープン後の状況)

被告東名小山は、平成元年八月、大口債権者である被告ゴルフサービスとの間で裁判上の和解の形式を取り、次のとおり合意した。

<1>被告東名小山は、同ゴルフサービスに対し、本件ゴルフクラブの全施設を賃貸する。

<2>被告ゴルフサービスは、同年八月、「ギャツビイゴルフクラブ」の名称で本件ゴルフクラブをオープンする。

<3>被告ゴルフサービスは、旧会員(東名小山カントリー倶楽部の会員)にも同じ条件で本件ゴルフクラブを利用することを認める。

<4>被告東名小山は、被告ゴルフサービスの承諾がなければ、新たな会員を募集することができない。

なお、被告ゴルフサービスは、自ら本件ゴルフクラブの会員権を発行しないと主張している。また、本件ゴルフクラブは、東名高速道路御殿場インターチェンジから約五キロメートルの位置にあり、約三三万坪に一八ホール、パー七二のゴルフコースと駐車場、レストラン、練習グリーン等の施設を備えている。

2 被告東名小山の原告宮田に対する加害行為

被告東名小山は、前記認定のとおり、当初最終募集人員を一八〇〇名と広告していたにもかかわらず、昭和五六年一二月に原告の宮田に対し本件会員権を売却後、さらにこれを少なくとも二万人以上に至るまで販売したものである。右会員数が適正会員数をはるかに上回り、ゴルフプレーを困難にするとともに、会員権の交換価値をなくさせたことは明らかというべきであり、立場上そのことを十分に承知していたと思われる被告東名小山は原告宮田に対し不法行為に基づく損害賠償責任を負うものというべきである。

これに対し、被告東名小山は、水野らが大量の会員権を発行したのは、昭和六〇年以前のことであり、現経営者が経営を引き継いだ昭和六〇年以後は、ゴルフ場及びクラブハウスの造成・建築・工事費に充当するため以外にはほとんど会員権は発行していないと主張するが、仮に右主張のとおりであったとしても、設立以来被告東名小山の法人格が一貫して法律上同一のものとして存続している以上、旧経営者の行為であろうと現在の被告東名小山が責任を負うのは当然である。被告東名小山の右主張は理由がない。

3 被告ゴルフサービス、同松本祐商事及び同オールコーポの原告宮田に対する加害の共謀の有無

(一) 被告ゴルフサービスは、前記認定のとおり被告東名小山に融資をしたのであるが、その一事をもって大量会員募集について被告東名小山と共謀があったと認めることができないのはいうまでもない。

そして、他に原告宮田主張の共謀を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告宮田の被告ゴルフサービスに対する請求は理由がないというほかない。

(二) 被告松本祐商事及び同オールコーポが、同ゴルフサービスを通じて被告東名小山に融資するとともに、それぞれその出身者を被告東名小山の代表取締役に送り込んでいるのは、前記認定のとおりであるが、その一事をもって大量会員募集について被告東名小山と共謀があったと認めることはできない。

そして、被告らの徹底した防御活動が影響してか他に右の共謀を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告宮田の右被告らに対する請求も理由がないというほかない。

4 被告荒井の原告宮田に対する加害行為

(一) 前記認定のとおり、被告荒井は、昭和五六年一月一七日、被告東名小山の代表取締役に就任し、原告宮田はそのころに本件ゴルフクラブに入会したことが認められる。そして、被告荒井は、その後の昭和五九年一〇月まで代表取締役の地位にあったが、在職中二万人の会員がいたと述べていたことからすれば、その在職中に相当数の本件会員権を販売したと認めることができる。

したがって、被告荒井は、原告宮田に対し、被害が及ぶことを承知しながら右大量販売の決定をしたというべきであり、右行為に基づく不法行為責任を負うものと解される(二万人という数字からすれば、既にこの時期に本件会員権はほとんど無価値となったと推認される。)。

被告荒井は、代表取締役として会員募集を行ったことは認めるが、それは通常の会員募集であって、大量募集の共謀をしたことはないと主張する。しかしながら、右のとおり、右主張と反対事実が認められるのであり、右主張を採用することはできない。

(二) なお、被告荒井は、原告宮田が、遅くとも平成元年一〇月七日の時点で損害の発生及び加害者を知っていたから、右損害賠償債権は時効により消滅していると主張する。

しかし、前認定のとおり、原告宮田のような外部の者からすれば、平成元年一〇月七日以前のどのような時期にどの位の本件会員権が発行されたかは必ずしも明らかではなかったし、また、右以降も引き続き本件会員権が発行されるように見えるがその販売量の動きは分からなかったと思われる。したがって、原告宮田が、右時点で損害の発生を確定的に認識したというのはやや無理がある。また、その損害が被告荒井の行為によるものであることまでを原告宮田において認識していたと認めるに足りる証拠はない。したがって、被告荒井の右抗弁は採用できない。

5 被告東名小山、同金子及び同畠山の原告小林に対する加害行為

前記のとおり、ゴルフ場の経営主体は、ゴルフプレーを可能にし、会員権の交換価値を維持するために、会員権を適正な数に維持する義務を負うものであるから、既に多数の会員が入会してゴルフプレーができなくなる恐れがあり、また希少性がないことにより交換価値が見込めない状況の下では、さらに新規の会員を募集すること自体も、入会後の大量販売と同様に不法行為にあたるというべきである。

これを本件についてみるに、原告小林が本件ゴルフクラブに入会した平成元年六月当時、被告東名小山の代表取締役は被告金子及び同畠山であり、特段の反証のない本件においては、同被告らが、原告小林を含む者に対し右の時点における本件ゴルフクラブの会員権の販売を決定したものと推認せざるを得ない。また、前記のとおり当時の本件ゴルフクラブの会員数は、少なくとも二万人程度はあったということができる。したがって、被告金子及び同畠山は、加害行為となる原告小林に対する販売の意思決定者として、被告東名小山はその場合の法人としての責任法理に基づき、いずれも不法行為に基づく損害賠償責任を負うものと解される。

6 その余の被告らの原告小林に対する加害の共謀の有無

(一) 被告ゴルフサービスが、被告東名小山に融資したこと、及び原告小林入会当時、被告金山及び同川北が同ゴルフサービスの代表取締役であったことは、前記認定のとおりであるが、その一事をもって大量会員募集済みの状況下で原告小林に対する販売についての共謀があったと認めることができないのはいうまでもない。

そして、他に右の共謀を認めるに足りる証拠はなく、原告小林の右被告らに対する請求は理由がないといわざるを得ない。

(二) 被告松本祐商事及び同オールコーポが、同ゴルフサービスを通じて被告東名小山に融資するとともに、それぞれその出身者を被告東名小山の代表取締役に送り込んでいるのは、前記認定のとおりであるが、その一事をもって原告小林に対する販売についての共謀があったと認めることはできない。

そして、他に右の共謀を認めるに足りる証拠はなく、原告小林の右被告らに対する請求も理由がないというほかない。

四  損害

前記認定のとおり、原告らが、入会時に支払った金額は金二〇〇万円である。 一方、被告東名小山、同金子及び同畠山は、本件ゴルフクラブの会員権は会員権市場において流通しており、その相場は現在約金五〇万円であると主張するが、その立証は何らなされていない。また、仮に、右のとおりであるとしても、原告らは、年会費を支払っていないところ、名義書換のためは未払年会費(平成元年度で年会費は金四万一四〇〇円)を支払う必要があるため、譲渡金代五〇万円に近い費用を支出せざるを得ない。したがって、原告らの会員権は実質的に無価値なものと認められる。

したがって、原告らの損害額は金二〇〇万円であるものと認められる。

五  以上によれば、原告らの請求は右の限度で理由があるから、主文の範囲でこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用し、仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 松本清隆 裁判官 平出喜一)

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